「TAKE IVY③ コットンパンツの知られざる真実」

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ブレザー、カレッジTシャツ、アワードジャケット、B.D.シャツ、バミューダパンツ、コインコーファー、etc…。これ程までにアイコンの多いファッションジャンルは、アイビーを置いて他にないのではないだろうか。そして、その全てを網羅している一冊が、そう、TAKE IVY。
さて今回は、3回目にしてようやくこのTAKE IVYの中身に触れていきたいと思う。

王道ブレザーの話にしようか、いやB.D.シャツも捨てがたい、ライフスタイルを掘り下げてみるのもアリだな。うん、まあいずれ全て書いていくつもりだが、最初ということでまずはコレだろう。

今回フィーチャーするのは、アイビーファッションの屋台骨とも言える「コットンパンツ」。
え?コットンパンツ?パンチ弱くない?そう思うかもしれないが、安心してほしい、多分、面白い…はずなので。

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そもそもこのコットンパンツとは何か。その名の通り、綿素材のフルレングスのパンツ。以上である。通称「コッパン」めちゃくちゃダサい。バミューダパンツやコインローファーの様な、気の利いた呼び名を付けてあげて欲しかった。
見た目は地味、呼び名はダサい、たいした特徴もない。アイテムとしては、100文字語るのも困難なライター泣かせのパンツだ。では何が面白いのか。それは、このパンツの背景にある。

まず上の写真をよく見てほしい。何か気づくことはないだろうか。そう、丈が、異様に短い。当時日本では、フルレングスのパンツを、あえて中途半端な長さで切るという発想はなかったという。今の感覚で見れば違和感はないのだが、その時の撮影クルーの目には、相当衝撃的な着こなしに映ったようだ。これは日本に持ち帰って商品化しよう。完璧なアイビーファッションを追求していたVANの商品開発担当は、長さのルールや着こなしについて、早速学生にインタビューした。
「そのパンツの長さは今流行っているの?」
すると、学生はこう言った。
「いや、洗ったら縮んじゃったんだよ。」
…まさかの答え。いや、彼がたまたまそうなだけかもしれない。そう思いインタビューを続けるも、出てくる言葉は皆同じ「縮んじゃった」
そう、好きで短いパンツを穿いていたわけではないのだ。もっと言うと、パンツの丈なんて気にもしていなかった。ではなぜ、皆揃ってパンツを縮ませてしまったのか。その謎を紐解く鍵が、下の写真にある。

大きな袋を持った学生。このバッグの名前はランドリーバッグ。中に入っているのは当然、洗濯物だ。アイビーリーグに通う学生の大半は一人暮らし。高校を卒業し、親元を離れ、慣れない家事に悪戦苦闘する姿は、想像に難しくないだろう。つまり、それまで洗濯機なんて触ったこともないのだ。「新品の綿のパンツは洗えば縮む」そんな当たり前を、知らなくても全く不思議ではない。加えてもう一つは、アメリカの洗濯事情。日本では馴染みがないが、実は欧米では、一般的に洗濯物を温水で洗う。これは水道水の硬度に関係があるらしいが、その話はまた別の機会にするとして(いやしないと思うが)、この温水がとにかく服を縮ませるのだ。

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かくして縮むべくして縮んだコットンパンツ。学生たちは、まあ縮んじゃったもんはしょうがないし、皆縮んでるからこのまま穿くか、といった感じだったのだろう。まさか後に、この姿が写真集として発売され、日本で大ヒットし、みゆき族(VAN信者たちの総称)のパンツ丈を短くすることに繋がるなんて、誰が想像しただろうか。